ひとりぼっちのオレンス『アラビアのロレンス』感想 85点

映画
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いつも通りアマゾンプライム(当時)を徘徊していると、「受賞歴のある〜」カテゴリにて本作を発見。もちろん名前だけは知っていたが、見たことは無かった。3時間超えの長丁場である事はまあ良いとして、いわゆる古典的な内容で退屈なんだろうな、と思い最後まで見る気も無く視聴を開始した。そしたらどうだろう、いきなり天吊りカメラで音が単車にガソリンを入れ始めるではないか!しかもタンク周りを綺麗に磨いてウエスをポイっ!カッコいい!!筆者はこの映画を最後まで観る決心をした。

3時間47分

この映画はとにかく長いが、構成は割とシンプルである。いきなりロレンス死亡シーンから始まり、過去に振り返りロレンスのアラビアでの活躍の始まりから終わりまでが語られる。以上である。加えてアラビアでのタイムラインはハッキリ明示されていないので、そんなに時間が経過しているようにも感じられない。

長い

ただ、だからこそ当時の地政学と現状のサウジアラビアに関するある程度の事前知識はあった方が良いかもしれない。事実、学校の世界史で学んだアラビアのロレンスに対しては胡散臭い印象しか無かったし、鑑賞を開始する直前までイギリスの立ち回りには特に触れないシンプルな「ロレンス英雄映画」になるのだろうな、と思っていた。

しかし、そこがまずもって異なっており、この映画のロレンスは正直気の毒な人物として描かれているようにしか見えなかった。かなりの変わり者として描かれている以上に、行った事に対するカタルシスなどは一切ない。アラビアを解放するという、偉大な行いの高揚感は行き場を失い、ロレンスの無常感に収斂する。

事実とその殆どが異なるかも知れないし、本当にそうだった部分もあるとは思うのだが、人間ドラマとしてはかなり暗いシーンが連続する。だからこそ、ロレンスが魅せられた「砂漠」の描写がただただ際立って美しい。

至高の砂漠映画

本作の特色といえば、その非常に美しいフィルムの絵作りと雄大な音楽、本物の砂漠を舞台にしたダイナミックなラクダ&人間たちだろう。砂漠の美しさは新しい方の「DUNE」を超える。

砂漠のシーンはどこを取っても美しく、正直名画がズラッとならんだ海外のオリエンタル美術館に行ったような気分になる。そしてそれに覆いかぶさる伴奏。これもまた素晴らしく、これらのシーンだけでも有無を言わさずこの映画は必見だなと直感するだろう。

また歴史がテーマである映画としては、ある程度一次大戦前夜〜パレスチナ問題に至るまでの中東情勢を把握していれば、その歴史記述の裏でどのような動きがあったのかを理解することができる。なぜロレンスがいきなりアラビア半島の部族のためにそんな苦行をするのか、という部分も含め眺めていると面白い。

達観した登場キャラクターの数々

かなり序盤から登場する王子のラスボス感が凄い。初代イラク王ファイサル王子と言えば、現在進行形で続く中東問題の当事者として最も重要なアラブ人であるが、本作でもその存在感は遺憾無く強調されている。人を惹きつける人的魅力と思慮の深さ、イギリス三昧舌外交、いわゆるブリカス仕草を体現している劇中のイギリス側登場人物と対象的に達観した感のあるアラブ側のキャラクターは王子だけでなく、シャリーフ・アリなど癖の強いキャラが数多い。

長丁場の映画ではあるし、間違いなく古臭い映画ではあるが超大規模なエキストラシーンや大自然のカットなど、是非機会があれば劇場で鑑賞したい映画である。

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