「ラ・ラ・ランド」などが特に目立った2017年のアカデミー賞で主演男優賞、脚本賞を受賞した本作。何故か長らくアマゾンプライムにて視聴可能となっていたので、ついに鑑賞。サムネイルや予告では何だかよく分からない作品だったが、ノンストップで全く飽きることなく見ることができる137分だった。
作品情報&あらすじ
原題:Manchester by the Sea 製作国:アメリカ(2016年) 日本公開日:2017年5月13日 監督:ケネス・ロナーガン
ぱっと見何の作品なのかよく分からない
この作品、実は結構分かりづらい。まずストーリーに関する説明はほとんどされないし、時系列はかなり複雑に入り組んだ状態で見ることを強いられる。明確な切り替わりの合図が無いので、カットの切り替えで急に過去に飛んだりする場合は登場人物の服装などで判別するしか無い。
ただ、逆にいちいち解説も目印もないのでスッとストーリーに入り込め、気付いたらしっかりとストーリーラインがわかるようになっているのが素晴らしい。シンプルだが考え抜かれた構成になっているなと関心してしまう。
左が主人公となるベン・アフレックの弟、ケイシー・アフレック演じるリー。『タクシー・ドライバー』のトラヴィス並みに序盤からスれており、今にも人を殺すのではないかと若干ハラハラしながら見守ることになる。そして右が本作のもう一人の主人公、甥のパトリック。このパトリックが非常にまとも常識人だったりするので、リーのクレイジーっぷりがありつつも視聴者は安心してこの映画を鑑賞することができる。
そんなバランスにて成り立っている本作だが、途中から主人公リーの過去が明かされ、徐々に視聴者としてはリーに対しては同情と応援したい気持ちが強まっていく。このリーに対する見方がガラッと変わる部分も、本作を語る上でも重要な仕掛けの一つと言える。
意外と爆笑ポイントは多い
アメリカの映画館では、作品が何であれ笑えるシーンでは普通にみんな爆笑する。アメリカと日本の映画館文化で最も異なるのが「エンドクレジットを見ない」、というのと「爆笑する」の2点だと筆者は考えるのだが、おそらくこの映画もアメリカではかなりの箇所で皆爆笑していたのではないかと推察する。
というのも、ご覧の通り完全にスれまくったクレイジーガイ・リーとまともな高校生パトリックの掛け合いが序盤、特に面白い。パトリックはなんとなく察してあげてはいるのだが、徐々にリーに対しても遠慮がなくなっていく。アメリカのよくある日常風景を普通に切り取っているだけ、のような何の変哲もないシンプル映画だからこそ、しょうもないシーンで爆笑してしまうのだ。
クセ強めな登場人物たち
主人公の元嫁のミシェル・ウィリアムズを筆頭に、登場人物たちはかなりクセが強い。特にパトリックの母親のリアル感はなんとも言えない狂気を感じさせ、パトリックの置かれた状況をより一層ハードなものにしている。こんな母親でよくまともに育ったなパトリック・・・。
海っていいよね
なんとなく、冒頭10分を経過して主人公リーが『ドライブ』や『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』のライアン・ゴズリングに似ているなと思った人はそこそこいると思う。寡黙でスれたタフガイ風のミステリアス成人男性。特に『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』では「森」が意識的に使われていたのに比べ、本作では言わずもがな「海」が作品のところどころに登場する。海で始まり、海に終わる映画なのだが、海で繋がる親子の話、という意味ではプレイス・ビヨンド・ザ・パインズのライアン・ゴズリングとデイン・デハーンに近いものを感じた。BGMや映像の滑らかさの関係で賛美歌的な外見となっている本作、実際に非常にツルッとしていれスムーズに引き込まれるのが大きな魅力の一つなのだが、それ以外でもリアルな登場人物たちそれぞれを楽しめる良作なのではないだろうか。
普通におすすめ 84点
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