【実機見学】A-12/M-21/SR-71/ブラックバード

航空宇宙

世界最速という技術革新を体現した機体

ブラックバード」の名前で有名なこの航空機とその派生型は、高度25500m以上でマッハ3を超えるスピードで飛行することが出来る唯一の飛行機だった。そして何よりも驚くべきは、この機体が1950年代に開発されたという点にある。

航空機史上でも特に異質なこの機体の誕生はまさに技術革新そのものであり、改めて本稿にてその出で立ちについて再確認してみたい。なおブラックバードには様々なバリエーションが存在し、シアトルの博物館で展示されている機体は「M-21」となる。

基本情報

名称:A-12/M-21/SR-71
用途:偵察機
開発メーカー:ロッキード・マーティン
初飛行:1962年
生産数:41機
全長:32.73 m
翼幅:16.94 m
全高:5.63 m
展示場所:シアトル・Museum of Fligh
https://www.museumofflight.org/exhibits-and-events/aircraft/lockheed-m-21-blackbird 
展示機体備考:

シアトル・Museum of Flight展示機体

1959年、ソ連の核及びロケット技術の進歩から軍拡競争が激化していたアメリカにおいて、ロッキード社のチーフエンジニアであるケリー・ジョンソンと彼のチーム(スカンク・ワークスと呼ばれる)が、ペンタゴンにマッハ3以上で飛行出来る提案書を提出した。彼らのチームはそれ以前にU2偵察機を開発していた実績があった。

その結果、A-12(ロッキード社が設計したシリーズの12機目)と呼称されることになる機体が、まず中央情報局(CIA)に発注された。これらの機体のほとんどは単座型であったが、後にドローン発射機として使用される可能性があるため、2機は複座型として製造された。A-12は、機体のチタン構造、複合材料、低レーダー断面積技術など様々な面でブレイクスルーを起こしながら開発された。そして試作機が1962年4月に初飛行する運びとなったのである。この数カ月後に、U-2がソ連に撃墜されキューバ危機が最悪の状況に直面するのが何ともタイムリーだ。

非公式にブラックバードと呼ばれたA-12は、見た目も性能も時代をはるかに先取りしていた。間違いなく先進的過ぎたと言っても過言ではないだろう。CIAは1968年までA-12を秘密任務で運用。A-12は米空軍のYF-12A迎撃ミサイル・プログラムを生み出したが、これは最終的に中止された。最も有名なブラックバードの改良型であるSR-71は、アメリカ空軍のために開発され、1990年まで最前線の偵察任務に就いた。3機のSR-71はNASAの研究用テストベッドとして1990年代後半まで活躍した。A-12のCIAでの運用がかなり短い事については、アマプラでも見れるヒストリーチャンネルの「秘密軍需組織:スカンク・ワークス -戦闘機開発極秘プロジェクト-」にて分かりやすく解説されている。

博物館の展示機はM-21と呼ばれる機体で、A-12の初期型で2人乗りの最初の型である。コードネーム “Tagboard “と呼ばれるCIAプログラムのために作られ、情報収集のためにD-21ドローンを搭載していた。これらの無人機はM-21「母船」から発射され、敵地上空を飛行するためのものだった。M-21の設計上の特徴は、発射管制官用の第2座席とドローンを搭載する発射パイロンである。M-21は2機製造されたが、2機目は1966年のD-21発射事故で失われた。上記画像のM-21の上に乗っているのがD-21である。

ミュージアムのM-21は1964年に初飛行し、現存する唯一の機体となる。

ちなみに、上記写真は2013年あたりに撮影したもので、現在は機体周辺に囲いが出来てしまったので真下から見学することは出来ない。当時はまだギリギリまで寄る事が出来たのである。

機体内部は流石に1960年代の機体といった雰囲気だが、それでも大きな威圧感を放ち続けている。

巨大な機体の足回りも巨大。

機体の9割がチタンという機体。近くで見ると意外と細かいパーツの集合体であることがよく分かる。

シアトルの展示機体はほぼ完全に「ドライ」な状態となっており、機体から油が滴るような事はない。しかしながら、米国内の他の博物館で、比較的現役時に近い状態の、特にSR71は機体の隙間から油がタレている様子が確認出来る。

ブラックバードの性能の鍵を握るのは、プラット・アンド・ホイットニーJ58ターボジェットとその先進的な吸気口設計だった。ターボジェット・エンジンは超音速の空気を消費して機能しないため、吸気口にはマッハ数の関数として前方および後方に移動するスパイク・アセンブリが組み込まれており、流入する空気をコンプレッサー面で適切な亜音速まで減速させる。この吸入空気の圧力回復が、マッハ3巡航状態での総推力のほぼ3分の2に寄与した。

ブラックバードはスカンク・ワークスとケリー・ジョンソン抜きには語れない。

コメント

トップへ戻る
タイトルとURLをコピーしました