カルト一歩手前まで行った映画「バクラウ」レビュー

映画

最近Netflixで様々な国の映画を見ることができるようになり、毎晩無限の選択肢の中から限られた自分の時間をどの作品に頭を悩ます事になっている中、たまには「やっちまった、けどこれはこれで良かったのだろう」という作品がある。

本作もそんな作品の一つで、事前情報が全く無い中完全初見で望んだところ案の定見事に全く意味のわからぬまま終劇を迎えてしまったのだが、改めて何が起こったのかを記憶を手繰り寄せる限りで振り返ってみたい。(最初からネタバレ全開で記述する)

PV

■謎の棺桶

冒頭、本作が未来の出来事である事が知らされる中、道端に沢山の棺桶が捨てられている場面から物語はスタートする。棺桶業者が事故にあい、横転して積載していた棺桶がぶちまけられてしまっている描写があるが、それほど多量の棺桶を必要としている場所がこの先にあることが示唆されていたのだろう。

カーナビには怪しい指名手配の様な画面が映るが、特に翻訳されるわけでないので表示内容をうかがい知ることはできない。

■謎の長老の葬式

村にたどり着くと、やたらと人が集まっている様子。村の長老が死んだとのことで、その葬式が執り行われていた。そんな中、長老と旧知の仲だったと思われる老婆が現れるが、どうも錯乱した様子。冒頭から全く説明もなく、状況判断もままならない視聴者である我々のほうが錯乱しそうである。

■カルト映画描写の連続

「エル・トポ」であったり「ジプシーのとき」的なカオス空間描写がブラジルののどかな田舎村で表現されるシーンが連発される。中国人がいないのに中華風な移動娼館、謎のドラッグ摂取、謎の水利権、あまりにも矮小的な強権的市長、謎の歴史博物館等々。それらが南米特有の行き場のない蜃気楼感を伴って映像化される様は、バルガス・リョサの「緑の家」を彷彿とさせる。視覚的にも「潰された豚が吊り下げられた納家でたかるハエを避けながら常温の牛乳を飲む」感がむせ返るほど濃厚に表現されており、これに説明不足の意味不明さも相まって極上の狂気を味わうことができる。ただ、その描写の中にもカポエラを楽しむシーンなど「ブラジル感」は散りばめられており、ブラジルカルトさもありなんという感じである。

■さり気なさすぎる「UFO」表現

途中、何の前触れもなくPS3世代程度のUIとともにドローン視点の映像が挿入され、村が何者かによって監視されている描写がなされるのだが、割と直後にかなり残念なUFO型ドローンが画面に見切れる。正直言うと、このドローンが本作最大の残念ポイントかもしれない。

■「殺人部隊」

Netflixで本作を見てから、日本語版の公式サイトを閲覧してみた。そこには強烈なワードが散りばめられており、その中でも「殺人部隊」これには笑ってしまった。

好意的にというか、素直に解釈するならこの「殺人部隊」はアメリカからやってきた傭兵部隊で、プロのフルタイム傭兵というよりも副業的な傭兵部隊だろう。どちらかと言うと金もある程度欲しいけど、どっちかと言うと「殺し」に重きを置いた犯罪者予備軍で、低脅威度の作戦に投入(例えば、今回のような完全に非対称の掃討作戦)されていたのだろう。なので一番可愛そうなのはそんなロクでなし集団を指揮しなければならなかったドイツ系の隊長。40年もアメリカにいた割には訛りがひどく、最初英語が非常に聞きづらいのはご愛嬌。

殺しのレジャーという方向性だと、無駄に統率取らされていたり、反撃の機会与えまくりであまりもサポート不足だったりとちょっと違うんじゃないかという感想。

■そもそもアフターマス世界なの?

作中では普通にネットもあれば電気も通っており、水ばかりは多少貴重なようだが大型旅客機も普通に飛んでいる世界。サンパウロあたりは普通に栄えてそうで、全然終末感があるわけでもない。そんな中、水利権のためにバクラウを地図上から消滅させようとしたトニーの意図もなかなか不明だ。

■歴史博物館最強伝説

結局、歴史博物館にあった小火器やそもそも実はみんな持っていた現代的な拳銃などで、圧倒的火力の差を見せつけられてマイケルは敗北する。マイケルが味方を2名射殺したのは本当に意味がわからなかった。

■子供が沢山死ぬ映画

の割、と言ったら変だが、この映画では子供が何人か死んでいる。農場の娘は死体として登場しており、また夜の襲撃時には不運にも9歳児が射殺されている。役割が与えられていなくとも画面には沢山子供が出てくる映画だけに、子供は必ず殺すという監督の執念を感じることができる。

■怪しげな作品

なんとも言えない感想しかなく、とにかく怪しい映画ですとしか例えようの無い本作。

決して万人にはオススメできないが、カルト映画の新たな境地を追い求める方にはピッタリ・・かもしれない。

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