圧倒的な存在感を放つ超未来的バイク
早すぎた天才とはまさにブリッテン創始者、ジョン・ブリッテンの事を言うのだろう。
世界で最も遠い場所にある都市と言っても過言ではない、ニュージランド最南端都市のインバーカーギル。そんな場所にあるバイク博物館「モーターサイクル・メッカ」で、他の数百台にものぼる名車と共に、とある伝説的なバイクが余生を過ごしていた。
それがこの「ブリッテンV1000/1100」である。
■スペック
モデル名:ブリッテンV1100 (V1100 CARDINAL) メーカー:ブリッテン 生産年:1992 気筒数:2 排気量:水冷1108cc 重量:138kg 最高速度:303km/h 馬力:170hp@9500rpm
存在自体が特異点
ブリッテンV1000(V1100)はニュージランド人の技術者、ブリッテンが自らハンドメイドで制作したスーパースポーツバイクである。制作は1992年からと、今から30年以上前。総生産台数は10台と、極めて希少性の高いバイクでもある。
こちらに展示してあるのは機体ナンバー1ということで、フロントに「1」のペイントが施されている。
紛れもなくブリッテンが1990年代初頭にクライストチャーチの工房でハンドメイドしたものだ。
なお、第一世代のV1000と第二世代のV1000/V1100が存在し、今回紹介するのはV1100となる。
生産台数、その先進的過ぎる設計思想、大手メーカーでなくほぼ個人制作という点、さらに生産国が工業国でなくニュージランドという点など、あらゆる意味で希少価値が極めて高いこのバイクは世界に10台。そしてこのバイクの故郷であるニュージランドはたった2台、更に南島え言えばこのインバーカーギルにしかない。(もう1台は首都ウェリントンの国立博物館)。ブリッテンは癌で1995年に亡くなってしまうが、生前に6台、死後に4台が制作された。
そして恐らくこのインバーカーギルでの展示が、このバイクを最も間近で見ることができる場所と思われる。
(博物館公式サイト:https://www.motorcyclemecca.nz/collection/john-britten-bikes/v1100-cardinal/)
モーターサイクル・メッカはオフシーズンの平日であればほとんど客はおらず、お国柄かスタッフもかない大らかなのでルールさえ守ればかなり近くから長時間観察することができる。このバイクを見るだけでも十分に価値があるが、世界最速のインディアン含め膨大な量の展示があるのでインバーカーギルに来たら絶対に行くことをオススメする。
こだわり抜かれた唯一無二の機械
まず、このバイクは当時としては圧倒的に先進的な空力特性を持っている。
ラジエーターはシート下に配置され、正面面積を低減させ空力的にアドバンテージを得ている。写真だとやや分かりづらいが、正面から見るとカウル部分に比較してエンジン周りはとにかくスリム。フロントフェアリング下部に設けられたインテークから空気がラジエーターに送られ、バイク後方に流れる仕組み。ラジエーターは小さいにも関わらず、華氏176度(摂氏80度)程度にエンジン温度を保ったようだ。
ハイパースポーツを超えたアルティメットスポーツとでも言う事ができるこのマシンはほぼハーフカウルバイク。エンジン周辺はほぼ裸状態。エキゾーストも有機的な曲線を描いて機体と一体化しており、美しい。なお、ブリッテン公式サイトはまだ生きており、以下のページにてエンジン音などを試聴することができる。
ブリッテン公式サイト:https://britten.co.nz/pages/listen-to-the-britten
エンジンは60度Vツイン。特にブリッテンはシリンダーヘッドにこだわり、全てを自作し吸気ポートと排気ポートをクレイで試作、調整を続けた。完成状態で9500rpmで170馬力を達成している。
エンジンバリエーションは2種あり、ボア×ストロークが99×64mmの985ccと、99×72mmの1,108ccとなっている。無論、当時ごく少数であったインジェクション装備である。
またエキゾーストに関しても非常に複雑な形状となっている。各シリンダーのエキゾーストパイプはエアボックスから簡単に排気できるように配置され、制作には各エキゾーストごとに60時間掛かっている。
極めて特徴的なフロント周り。ブリッテンはサスペンションにもこだわり、特にガーダーフォークは現在でも先進性を感じる事ができる。前輪の47mmアルミチューブアスクルにボールジョイント経由でリンクされている。ステアリング制御は、ガーダーからシザーズリンクを介してハンドルに伝えられている。
ちなみにホイールももちろんカーボンファイバー製だ。
驚くべき事にリアサスペンションは、エンジンの前に配置されエンジン下のプッシュロッドで作動するという過激な発想だ。
流石に跨る事は出来ないが、ハンドルは超スパルタンという訳では無さそうなポジション。
ほぼハンドメイドのフルカーボンカウルは非常に滑らかで惚れ惚れするほど。塗装も指紋一つ無い完璧な状態だ。
曲線を中心にデザインされた機体は、まるで自然界に存在するか造形物のような有機的な印象をもたらす。カラーリング的にも青い部分が独立した部位のように強調されている。
スイングアームも時代を先取りしたカーボンファイバー製。
どこから見ても極めて特異なバイクだが、リアサイドからのルックスも非常に美しい。
メーター周りはシンプルながらも、機能的な印象を受ける。何よりも目を引くのは巨大なカーボンダクト。タンクには「MADE IN NEW ZEALAND」の文字が。
カウルは分割が以外と少なく、特にシート含むアッパーカウルは1枚で構成されている。つなぎ目の無い曲線美が素晴らしい。
画像で紹介してきたが、実物の存在感を上手く言語化するのは難しい。
実物が展示されているのは
・モーターサイクル・メッカ(インバーカーギル)
・国立博物館(ウェリントン)
・バーバー・モーターサイクル・ミュージアム(アラバマ)
・Solvang Vintage Motorcycle Museum(カリフォルニア)
などで常設展示されているようだ。是非実物を見てほしい。
ブリッテンがハンドメイドエンジニアを試行錯誤する過程で試作された単気筒エンジンなど、制作秘話に関する展示も多数。
あとがき:ニュージーランドの偉人
ニュージーランドでは稀にエンジニアリングでとんでもない超人が出現する。
原子物理学の父、アーネスト・ラザフォード。
ライト兄弟より先に空を飛んだリチャード・ピアース。
そしてジョン・ブリッテン。
人口500万人程度の国で、常識を覆すようなアイデアが飛び出てくるのはその豊かな自然が関係しているんでは・・と、ニュージランドをバイクで回ってみて思わずにはいられなかった。
※参考文献 https://www.cycleworld.com/bikes/coolest-sportbikes-90s-britten-v1000/
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