BMW・M1000RR(2023)実車レビュー&試乗感想

バイク

BMW現行最強量産車両

© BMW AG 2024

BMWモトラッドがかつてより生産してきた最高峰スーパースポーツS1000RR。トムクルーズが映画で乗っていた事もあり、日本でも大人気のモデルであるがその更に上を行くプレミアムモデルが、M1000RRだ。2020年に初代「M」が発表され、行動走行車にも拘らずMotoGPマシンさながらのウイングレッドや過激な走行性能などで一躍脚光を浴びた。もちろんバイクで「M」を冠するのは初めての事である。さらに、装備をより一層強化した「Mコンペティション・パッケージ」も存在した。

そんなBMWバイクの最高峰がこの度モデルチェンジ、2023年仕様のMパッケージを発売した。もちろん「Mコンペティション・パッケージ」の上位グレードも健在で、本稿ではそのM1000RR・Mコンペティション・パッケージの実車詳細を見ていきながら、実際に試乗した際の様子をレポートする。

外観:見える部分ほぼカーボンの異次元車両

最近の各社上位モデルバイクはフロントスタイリングが常に先鋭化している傾向があり、このM1000RRも先代とくらべより未来的な風貌となっている。とくに注目なのがライト部分。バイクの目に当たる部分だが、先代M1000RRがどちらかというとガンダム的鋭角な直線で構成されていたのに対し、こちらは目が大きくなりより「有機的」な印象へと大きく変貌している。ウイングが超巨大なので、正直「見たことのないバイク」というのが第一感想となるのだが、とにかく未来を感じさせるデザインとなっている。「ガンダム」で例えると、ガンダムやゲルググで盛り上がっていたところに突如「キュベレイ」がやってきた感じである。伝わるだろうかこの異質感。

フロント周りももちろんフルカーボン。カーボンの折り目ははっきり視認できるし、たたくとコンコンとカーボン特有の軽い響き。

ディスプレイ周りの様子。とにかくカーボンの主張が強いが、モニター自体の機能は最近のBMW車と変わらない。キーを回すと専用の「M」のロゴが表示される。キーシリンダー脇に小さなBMWエンブレムをワンポイントで配置する演出が憎い。※起動時アニメーションは後日撮影予定

フロントの次に目につくのがこちら、通常の市販車ではあり得ない「Mエアロ・ホイールカバー」。MotoGPマシンでしか見ない様な完全レース用装備だが、超高速時に空力性能を高めるという。

フロントホイール周辺に発生する乱流を抑制して250 km/h以上で走行するような長い直線ではマシンのポテンシャルをフルに引き出します。

BMW Motorrad

いやいや、250km/h以上の走行って公道はおろか、日本のサーキットでもそんなに無いから・・と思わず言いたくなるオーバースペック装備だが、とにかく見た目がかっこいい。もちろんフルカーボン。

フロントブレーキはダブルディスクブレーキ、直径320 mm、4 ピストンブレーキキャリパー。

さらにブレーキキャリパーに覆いかぶさるように設置されているのが「Mブレーキ・ダクト」だ。

Mブレーキ・ダクトは新設計のフロントフェンダーと一体化しており、フロントフォーク周辺やブレーキ・キャリパー周辺のエアフローを最適化しています。ブレーキ・キャリパーの温度を低下させるMブレーキ・ダクトは量産市販車でも初めて採用したパーツです

BMW Motorrad

ダクトの厚みは非常に薄く、強度が心配になるレベルだがカーボンなので大丈夫なのだろう。立ちごけしたら確実に傷つく部位なので、扱いには非常に気を遣う。笑い話で、このマシンにはアスクルスライダーやエンジンスライダーの装備が意味ないとされている。倒したら最後、ウイングやダクトが先に接地するからだ。

前輪タイヤは120/70ZR17、POWERミシュランのPOWER CUP 2。

後輪周り。タイヤは200/55 ZR17。ブレーキはシングルディスクブレーキ、直径220 mm、2 ピストン固定キャリパー。クリア・アルマイト処理されたスイングアームが目を惹く。

もちろんホイールもすべてカーボン。ディスクの形状もよく見ると複雑な曲線を描いており、優美な印象を受ける。

リアの足回り全景。アルミニウム製ダブルスイングアーム、コイルスプリング付きセンタースプリングストラット、調整式リバウンド/コンプレッションダンピングおよびスプリングプリロードなどなどとなっている。サスのスプリングはブレーキキャリパーと同じ青。各種ガードもすべてカーボンファイバー。ケーブルに至るまで美しい。

リアサス部アップ。この個体は走行距離も百キロ程度なのですべてがまだ新しく、アルミ削り出しの各パーツの美しさが際立っている。まさにジャーマン・エンジニアリングの大勝利という感じ。

ステップ周辺。ギルズ・ツーリング製で、かなり細かく調整できるようになっているのは嬉しい。ここにもBMWエンブレムがあしらわれており、BMWの自信を感じさせる。

サイレンサーはデフォルトでアクラポビッチ・フルチタン。純正なので当然認定品なのだが、どう考えても音がデカい。筆者のZH2規制値ギリギリトリックスターサイレンサーと比較しても明らかに音がデカい。サイレンサー先端は、アクラポビッチ製だからかややカーボンの織込みパターンが異なる。

マフラーガードもカーボン。この車体、カーボンだらけだがすべて「柄」では無いのが怖いところだ。

エンジン部分は巨大なカーボンカウルで覆われおり、フレームなどを覗き見る事は出来ない。サメのエラのようなスリットが多数入っている。ただ、このカウルが無意味に感じるほど走行中は太腿で熱を感じることになる。

エンジンは途方もないもので、最大出力156 kW (212 PS) 、最大トルクは113 Nmとなっている。そして車体外装はフルカーボンなので乾燥重量169.8Kg(公式サイト、バッテリー除く)との事で中型SSバイク並みに軽い。そこから導き出される最高速度は314km/hとの事だが、もっと出そうである。

真っ新でまだどこも潰れていない、美しい状態のコアガード。エキゾーストパイプはかなり見にくいが、キレイな焼き色が入っている。

BMW公式サイト曰く、「情熱を源泉として挑戦する準備ができているライダーへ。」「1,000分の1秒を追い求める全てのライダーへ。」となっているがもはや言っている意味が良くわからない

448万8500円という価格が、全てを物語っているのかもしれない。

以下、主要スペックとなる。

全長 (mm)2073
全幅 (mm)848
ホイールベース (mm)1457
シート高 (mm)832
車両重量 (kg)192
エンジン油冷/水冷4気筒4ストローク並列エンジン
排気量 (cc)999
最高出力(kW)156
最高出力(PS)212
最高出力回転数(rpm)14500
最大トルク(N・m)113
最大トルク回転数(rpm)11000
燃料タンク容量 (L)16.5
燃料タンク・リザーブ容量 (L)4
バッテリー容量12V-5Ah
フレーム型式アルミ合金製ブリッジフレーム

試乗:尋常ではない排熱、凶暴な加速

肝心の試乗に関してだが、単刀直入に言うと恐怖が勝ってしまいまともに回す事が出来なかった、と言わざるを得ない。まずシート高が832mmという事でかなり高い。高いのは当然で、ホンダのCBR1000RR-Rとほぼ同じくらいと言っていい。ステップの位置も大体同じくらいと感じた。

むしろハンドル位置はファイアブレードより微妙に楽に感じたくらいである。

ただ、筆者が普段乗っているのがシート高810mmでバーハンドルの極楽ポジションZH2なだけあり、はっきり言って姿勢がつらかった。ただ、これが原因で恐怖を感じた訳ではない。

まず、とにかく軽い。数値的にCBR1000RR-Rから10kgほど軽いという事だが、それでもカーボンという事もあるのか猛烈に車体が軽く感じられる。車体が軽いので、街乗りだとヒラヒラしてしまい、と言ってとにかくうるさいのでエンジンを回す事もそこまで出来ず、400万車両の修理代が頭をチラつき猛烈に集中して運転せざるを得なかった。

そして高速に入りエンジンを回すと飛ぶように突っ走ってしまうので、本能的に恐怖を感じる。飛ばすといっても4000回転程度までしかどうしても出せなく、本来のスペックの10%も出てないような気がするのだがそれでも速く、とにかくトブ

ZH2は4000回転を超えるとスーパーチャージャーが動き出し猛烈に加速するので、文字通りワープ感を感じる事が出来るのだが、M RRは「コレ止まれなくなるんじゃないか」というニュアンスの加速の仕方をする。車体が軽いからか、エンジン特性からなのかは分からないが、とにかく本能的にこれ以上加速するとヤバい、と早々に感じてしまうレベルで速いのだ。ZH2もover200馬力のモンスターマシンだが、重量もありコントロール出来てる感を十分感じる事が出来る。ただ、M RRは真面目に乗り手を選ぶ正真正銘のレースマシンと断言できる。とにかくこのバイクはサーキットで乗らないと意味がないと感じる。

ハンドリングに関しては、とにかく車体が軽いのでいかようにも曲がる事が出来る。ただ、ポジションは完全にレーサーのそれなので街乗りは完全に不向き。

他に個人的に気になった点としては、

・廃熱

・振動

・エンスト

の3点だ。

まず廃熱は、エンジン部分からの廃熱がカウルを貫通してダイレクトに太腿に届く点。冬ですら非常に熱くなったので、夏は間違いなく火傷するレベルで熱くなるだろう。また、ニーグリップする位置のカウルが妙に凹むのも気になる。中が空洞だからだと思うが、気になる。

次に振動。4~5000回転以下だと振動でミラーがまともに見れない。今時振動でミラーがぶれるなどあり得ないと思うが、本車種はとにかく振動する。基本的に、すべてを置き去りにするバイクなのでそこまで関係ないかもしれないが。

最後にエンストしやすい。現代の大型リッターバイクでエンストなどあり得ないと思うが、渋滞時などにラフにクラッチワークしていると普通にエンストする。ちなみに、クラッチもデフォルト状態だとそこそこ重い。レースで本気スロットルワーク前提だからなのか、街でチョロチョロ運転には完全に向いていないと確信した。

以上、微妙な道でしか試乗できなかったが故の微妙なレビューとなったが、また試乗に再挑戦し、動画も交えて再検証したいと思った次第である。

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